「スクーター大国」台湾

アンダーバー

世界で最も二輪車の普及している台湾。125ccクラスのスクーターを中心に、人口の1.8人に1台という驚異的な普及率となっている。街なかでは、バイクのあまりの多さに圧倒されるほど。生活に欠かせない手軽で便利なパーソナルコミューターとして社会に認知されているものだ。若者のほとんどが二輪免許を取得し、保有台数は年々増加している。台北市では、二輪車が道路を有効に活用するため、四輪車と分離する施策を行ったり、歩道や車道など街の至るところに二輪車駐車スペースを設けている。日本も学ぶべき点は多そうだ

「スクーター大国」台湾~最近の二輪車事情

バイクがひしめく朝の通勤風景

二輪車が目立つ台北市内今回本誌では、世界で最も二輪車が普及している台湾を訪れた。朝早くから夜遅くまで大勢の市民がバイクを走らせる街。 通りによってはバイクの大きな流れに圧倒されてしまうほどだ。二輪車の利便性が都市のなかで遺憾なく発揮されており、そこに生まれる活気は、伸長する台湾経済の原動力でもある。現地行政の二輪車走行対策、駐車対策は活発に行われており、そうした施策に学ぶべき点も多い。

台北大橋は、台北市の西側から中心部へとアクセスする幹線道路にあり、平日の朝8時から9時にかけて通勤ラッシュとなる。この橋は、四輪車と二輪車とにレーンが分離されており、二輪車ユーザーは専用レーンを通って高架から地上へと下りる構造になっている。下りたところは交差点のため、赤になると信号待ちのバイクがどんどん増える。
 観察してみると、1回の信号待ちで集まるバイクの数は数百台。ほとんどが小型のスクーターで、信号が青に変わると一斉にスタートして、ひしめき合うように交差点を通り抜けていく。ラッシュアワーの間、この光景が何度も繰り返されていた。
 道端にいた男性は、「この橋を通るバイクは多いから、毎朝すごい数になる。みんな仕事や学校に行く人たちだと思う。雨の日だってバイクですよ、便利だから」と話す。この場所は市内でも有数の“二輪車スポット”とのことだが、いかに台湾ではバイクが社会に浸透しているか、それを示す象徴的な風景だ。

「1人に1台」の二輪車保有率

台湾における二輪車の普及状況を数字で見ると、総人口の約2,270万人に対して二輪車の総保有台数は1,280万台。人口“1.8人に1台”の保有率となっている。日本の“9.7人に1台”はいうにおよばず、ほかのアジア諸国のケースをみても例えばベトナムは“5.9人に1台”、タイは“4.2人に1台”、マレーシアは“3.5人に1台”となっており、これらと比べても台湾の二輪車普及はかなり進んでいる。見方によっては、子供と老人の人口を除くことで、“1人に1台”行き渡っている水準といってもいいだろう。ちなみに四輪乗用車の保有台数は現在約645万台で“3.5人に1台”の保有率。二輪車の半分程度の普及状況となっている。
台湾ヤマハ吉野さん台湾ヤマハ社長の吉野博行さんは、「90年代のはじめは、日本でいう原付、つまり排気量50ccのスクーターがかなり売れていたのですが、政府が排出ガス規制を強化したことでそのクラスの生産コストが上がってしまい、従来通りの供給が難しくなったんです。現在はコストパフォーマンスに優れた100ccクラスと125ccクラスのスクーターが市場を大きく占めています」と話す。
 もともと台湾では、政府の輸入規制で、実質的に二輪車の上限が150ccクラス以下に抑えられていた。2003年に完成車の輸入が解禁されてからは250ccを超える二輪車もちらほら見かけるようになったが、それらは一部の裕福な層に広まり始めたばかりで、まだ一般的な乗り物とはなっていない。
 吉野さんは、「台湾の交通社会における二輪車の役割は、通勤、通学、ビジネス、そのほか生活全般のパーソナルな移動を担うものです。つまり趣味性よりも実用性が重視されていて、小排気量のスクーターが主流となっているのは、その手軽さと便利さが、台湾市民の生活にぴったりマッチしているからだと思います」と話している。

ほとんどの若者が二輪免許を取得する

台湾の二輪車事情を紹介する呉さんこうして台湾では、二輪車の普及が進んだ結果、市場は代替需要が中心となり、毎年の新規需要は、免許年齢に達した若者たちが生み出している。
台湾北部の都市、新竹市にある国立交通大学を訪ねた。同大は、在学生1万2000人を擁する総合大学で、交通工学やITSなど最新の交通管理技術を研究する機関でもある。交通事故鑑定が専門で、同大における交通安全指導にも携わっている交通管理学系副教授の呉宋修さんは、若者の二輪車指向について次のように話した。 「台湾では250ccまでの二輪免許は18歳から取得できます。この免許には教習制度がなく、試験は簡単です。だから大学に入学すると、小遣いやアルバイトで貯めたお金で、どの学生もバイクを購入します。台湾では、男も女も若者のほとんどが二輪免許を取ってバイクに乗るようになるのです」
とくに台北市以外の都市では、電車など公共交通網の整備が遅れており、大学生になって行動範囲が広がると、バイクなしでは生活がとても不便になる。呉さんは、「スクーターは燃費がいいし、台湾はガソリンが安いので、電車やバスに乗るより自由な移動ができる上にむしろ経済的なんです」と指摘する。

交通大学の二輪車立体駐車場むろん同大学でも、バイクで通学する学生が非常に多いため、キャンパス内には3,500台収容できる二輪車の立体駐車場を設置している。駐車料金は年間100元(=約360円)の登録手数料のみで、実質的に無料開放されている。
この駐車場から出てきた学生は、「高雄市の出身ですが、大学生活のために実家からバイクを1台持ってきました。台湾の都市は、自転車で走るには広すぎるし、クルマには狭くて止める場所がありません。バイクで動くのにちょうどいい条件の街が多いんです」とのこと。 呉さんは、「大学生になれば、二輪車はとても便利で身近な乗り物になります。一方で、台湾の交通マナーは決してよい状況とはいえません。交通安全教育の充実などはこれからの課題です」と話していた。


二輪車の交通対策が重点課題――台北市

整備の進む台北市のMRT経済成長を続ける台湾を牽引する台北市。街には地上508mで世界一高いビルとなった「台北101」(台北国際金融センター)がそびえ立つ。今月7日には、同市と高雄市とを結ぶ新幹線が開業する予定となっており、急速な都市の発展を見せている。
ここ十数年の間、市民の所得は増加し、乗用車の普及が進んだ。しかし同市では、渋滞対策、排出ガス対策の観点から、総合的な交通政策を打ち出しており、二輪車を含めた自動車の使用抑制に取り組んでいる。ことに、1996年から同市内では、MRT(Mass Rapid Transit)と呼ばれる地下鉄・高架鉄道の公共交通網の整備が進んでおり、新しい市民の足として利用の促進を当局は呼びかけている。
台北市交通局長の曹さん台湾中央政府の立法委員であり、台北市の交通局長を務める曹壽民さんに、近年の二輪車に対する交通政策について話を聞いた。 「台北市ではいま、2.6人に1台の割合で二輪車が普及しています。市当局は、この十数年来、経済の発展とともに二輪車は次第に減少する“過渡的な乗り物”と考え、交通管理の側面からは放任してきました」とのこと。ところが、個人所得が増えて四輪車の普及率が上がっても、二輪車の保有台数は減少しないどころか、年々増加していることがわかった。 MRTの利用について調査してみても、乗客の64%は従来バスを利用していた人たちで、二輪車から乗り換えたという客は19%だった。主だった移動手段を二輪車からMRTに移行させることには限界があることもわかった。曹さんは、「コンパクトで経済的、機動性が高く、止める場所に困らない二輪車は、非常に便利な乗り物として市民から支持されています。そこで市政府としては、こうした二輪車の存在価値を見直し、二輪車が道路を有効利用できる政策を打ち出すことにしたのです」と話す。 近年同市では、交通政策に二輪車をきちんと位置づけ、その交通問題を克服するためのいくつかの施策に取り組んでいるという。

二輪車を分離した交通流をつくる

信号手前の「二輪車停止ゾーン」台北市が取り組む交通施策の一つには、二輪車と四輪車の走行を分離させる通行方法を考案し、取り入れているものがある。
前出の台北大橋における「二輪車専用レーン」もそのうちの一つだが、市内でよく見かけるのが、信号の手前に設けられた「二輪車停止ゾーン」。1997年から市内の幹線道路の交差点各所に導入されており、現在、数千カ所が設置されている。
これは、二輪車が四輪車の前方に出て信号待ちできるゾーンのことで、二輪車を先に走行させて四輪車と分離することで、安全で円滑な交通流を確保しようというもの。市当局では、導入以前と比較して二輪車の交差点事故が4割減少したとしており「一定の効果がある」と判断している。「二段階左折方式」写真中央が待機枠
また、右側通行の台湾では、多くの交差点で二輪車の左折が禁止されている。このため、日本の原付の「二段階右折」と同じ発想の「二段階左折方式」を採用し、2001年から法制化している。これにより左折禁止の交差点では、二輪車が二段階目の発進を待つためのゾーンがある。現在、市内では数百カ所の「二段階左折ゾーン」が設定され、これにより左折二輪車と直進車の衝突事故が回避されている。

急ピッチで進む二輪車の駐車スペース整備

歩道に置かれた二輪車(台北市)さて台湾では、『道路交通安全規則』によって自動車の駐車に関する規定がなされているが、二輪車に関しては柔軟な規制となっており、地方政府が実態に応じたルールを定めることができる。したがって、地方によっては歩道への駐車を認めているケースもあるし、台北市の場合は一部を除いて歩道への駐車は認めておらず、車道にも駐車禁止区間が多い。ただし二輪車の駐車違反に関しては、罰則についての社会的理解が得難いことから、厳しい取り締まりは行われていないのが現状だ。
このため二輪車は、街なかの車道、歩道、または商店街の軒先部分に設けられた通路に止めてあるケースがほとんど。とくにこの“軒先通路”は、私有地を歩行者の往来に提供しているものだが、歩行者の安全確保のため、物を置くなどして占有してはならないという独特の法律がある。それにもかかわらず、二輪車が並べて置いてあるケースは少なくない。歩道を削って整備した駐車スペース(台北市)
台北市では、歩行者の安全確保の観点から、この“軒先通路”に駐車された二輪車を排除することを目的として中央政府に予算措置を求め、その受け皿として、歩道や車道に二輪車の駐車スペースを設ける事業を2000年から進めている。
具体的には、歩道の植栽と植栽の間を削り取り、二輪車を数台並べて路上駐車できるように区画したスペース。進入口の車道側には段差がなく、歩道側には段差のある構造となっている。排気量250ccの二輪車でも止められる広さだ。これまでに、市内に1万2000台を収容できる駐車区画を整備し、無料で開放している。
曹さんは、「この施策によって、軒先通路や歩道への二輪車の放置は明らかに減少しました。今後も当面は中央政府の予算で整備を進めていきますが、将来的には利用者から駐車料金を徴収しようと考えています」と話している。
同市ではまた、駅やオフィスビル、レジャー施設、大規模商業施設など、人の集まる建築物には二輪車の収容を促進するように働きかけを行っており、そうした二輪車駐車場の数も年々拡大している。
これらの取り組みは、二輪車の駐車場所不足が課題となっている日本でも、大いに参考となりそうだ。

MotorcycleInformationバックナンバー

夏のバイクシーズン到来!バイクを思いきり楽しむイベントの数々
東日本大震災・復興への第一歩  被災地に二輪車の機動力を活かす
自治体が続々とプロジェクトを開始 電動バイク普及へ
「スクーター大国」台湾~最近の二輪車事情
二輪車「路上駐車スペース」導入へ
バイクの運転トレーニングは楽しい!近ごろ人気のライディングスクール